VOL.7 ダミアン・デズモンドを映し出す「ウィロー,1チェア」
『SPY×FAMILY』7巻の表紙で、名門イーデン校に通うダミアン・デズモンドが腰かけているのは、1904年にチャールズ・レニー・マッキントッシュがデザインした「ウィロー,1チェア」です。

画像出典:集英社公式ホームページ
一見すると、目を奪われるのは天へと伸びるような背もたれ、その高さは椅子というより、小さな建築物を思わせます。しかし、その存在感に負けることなく座っているのがダミアンくんです。

名門政治家デズモンド家の次男として生まれ、幼い頃から「期待される息子」であり続けてきた彼。誰よりも優秀であろうと努力しながら、本当は父に認められたいという純粋な想いを胸に秘めています。

高く伸びた背もたれは、まるで「家柄」や「期待」という目には見えない重圧の象徴のようにも感じられます。その大きな存在に包まれながらも、まっすぐ前を向いて座るダミアンくんの姿は、小さな身体で懸命に自分の居場所を築こうとする彼自身を映し出しているようです。
〇空間をデザインした建築家、Charles Rennie Mackintosh
この椅子をデザインしたのは、スコットランド出身の建築家・デザイナー、Charles Rennie Mackintosh(チャールズ・レニー・マッキントッシュ)。彼は1868年6月7日、イギリスのスコットランド南西部に位置する(当時のイギリスの第2の都市)グラスゴーに生まれました。

日本の元号は、慶応4年であり明治元年となります。そう、江戸幕府が崩壊し、明治新政府による近代国家建設が始まった日本の歴史的大転換期です。世界をみますと、アメリカで黒人の市民権が付与され、スペインで革命が起きるなど、欧米列強の帝国主義体制の形成と非西洋圏の近代化が交錯した激動の時期でした。
彼は1889年(16歳)のとき、グラスゴーの建築家ジョン・ハッチソンの元に弟子入りし、同時にグラスゴー美術学校の夜間部に入学。そこで出会った建築家・デザイナーによるグループ「The Four(ザ・フォー)」を結成し、グラフィックを中心とした活動がヨーロッパ各地の展覧会で大きな評価を得ます。さらに27歳の若さで、母校の新校舎設計コンペに優勝。彼は家具だけをデザインするのではなく、建築、照明、壁、家具まで含め、一つの空間全体を作品として考えるデザイナーでした。

「ウィロー,1チェア」は、1904年(36歳)にグラスゴーの「ウィロー・ティールーム」のために製作された一脚です。この店は街の中心部にあり、白が基調の空間に独特のシルエットを備えた数種類の椅子が置かれました。
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ソーキーホール通り119-1211にあるウィロー・ティールーム(2F)
「ウィロー,1チェア」は、店の支配人が座るひときわアイコニックの椅子で、半円筒状の背もたれに柳(ウィロー)を思わせるパターンがほどこされ、シートの下にはメニューが収納できました。

特徴的なのは、約120cm(ダミアンくんと同じ小学1年生前後の身長)にも及ぶ高い背もたれ。これは単なる装飾ではありません。座る人を優しく包み込み、周囲の視線を和らげ、小さな空間を生み出すという役割を持っています。
まるで椅子そのものが「静かな居場所」をつくっているかのようです。
〇本当は優しい少年だからこそ
ダミアンくんは、初めこそ気が強く、プライドの高い少年として登場します。しかし物語が進むにつれ、不器用ながら友だちを思いやり、失敗すれば落ち込み、少しずつ成長していく姿が描かれています。
高く堂々とした背もたれは、彼が周囲に見せようとする誇りや威厳。一方で、その内側にすっぽりと収まる姿は、まだ幼く、静かに認められたいと願う一人の少年そのものです。
強さと繊細さ。
自信と不安。
ウィロー,1チェアは、その相反する二つの感情を静かに受け止めているようにも見えます。
〇空間の象徴となる椅子
多くの椅子は「座るための家具」です。しかしウィロー,1チェアは違います。そこに置かれるだけで空間の印象を変え、その場の象徴となります。決して派手ではないのに、自然と視線が集まる。その姿は、イーデン校でも常に周囲から注目され、知らず知らずのうちに期待を背負って生きるダミアン・デズモンドと重なります。
まだこどもでありながら、おとなの世界の事情を背負わなければならない少年。そんな彼だからこそ、この椅子は驚くほどよく似合うのかもしれません。
- 〇名前:Willow, 1 Chair (ウィロー,1チェア)
- 〇発表年:1904年(36歳の作品)
- 〇Designer:Charles Rennie Mackintosh(チャールズ・レニー・マッキントッシュ)
- 〇Brand:Cassina(カッシーナ)
高く伸びる背もたれは、権威を表すためではなく、人に静けさと居場所を与えるために生まれました。だからこそ、大きな期待を背負いながらも、一人の少年として懸命に歩み続けるダミアン・デズモンドを映す椅子として、これ以上ないほどふさわしい一脚なのかもしれません。
ダミアンは「デズモンド家の息子」という肩書きに押しつぶされそうになりながらも、本当はまだこどもです。そんな彼にとって、この背もたれは重圧の象徴であると同時に、誰にも邪魔されずに自分らしくいられる居場所にも見えてきます。この二面性が、ウィロー,1チェアとダミアンを結びつける最大の魅力だと感じました。
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イラスト;シチロメグミ
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