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VOL.8 フランキー・フランクリンを映し出す「イームズラウンジチェア」

『SPY×FAMILY』8巻の表紙で、情報屋・発明家としてロイド・フォージャーを支えるフランキー・フランクリンが、まるで自宅のソファでくつろぐように身を預けているのは、1956年にチャールズ&レイ・イームズによってデザインされた「イームズラウンジチェア&オットマン」です。

画像出典:集英社公式ホームページ

SPY×FAMILYのホームページ

 

目を奪われるのは、その圧倒的な存在感。木製のシェルに包まれた柔らかなレザークッション。身体を深く預けることのできる大きな座面。そして、脚をゆったりと置けるオットマン。

「座る」というよりも、「身をゆだねる」。そんな言葉が似合う椅子ですね。そして、その椅子に寝そべるように座っているのが、フランキー・フランクリン。筆者の好きなキャラクターです。

An image on JP-HM | Herman Miller Japan

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スパイであるロイドの協力者として、情報収集から発明、変装道具の制作まで何でもこなす彼は、物語の中でも決して表舞台に立つ人物ではありません。いつも少しおどけていて、女性にはめっぽう弱く、恋愛では何度も痛い目を見る。それでも、いざというときには誰よりも頼りになる存在です。

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そんなフランキーを見ていると、この「くつろぐためにつくられた椅子」が、妙に似合っているように思えてきています。

 

〇表舞台には立たない、もう一人の主役

フランキー・フランクリンは、ロイド・フォージャーの協力者であり、情報屋として東国のさまざまな情報を集める人物です。さらに、盗聴器や通信機器、変装道具などを自ら開発してしまうほどの発明の才能も持っています。ロイドが任務を遂行するためには、フランキーの存在が欠かせません。

クラシック

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しかし、フランキー自身が物語の表舞台に立つことはありません。表舞台に立つのはロイドやヨル、アーニャたち。その裏側で、必要な情報や道具を用意し、時には危険を引き受けながら仲間を支えている。いわば「誰かの活躍を成立させるための人」です。そんなフランキーの姿は、イームズ夫妻が家具づくりに向き合った姿勢とも、どこか重なるように感じています。イームズ夫妻の詳しい歴史については、VOL.3をご覧ください。

VOL.3 家具と彫刻の境界を超える造形。ラシェーズ

イームズ夫妻が目指したのは、単に美しい家具をつくることではありませんでした。新しい素材や成型技術を用いながら、人が実際に使ったときにどう感じるのか。どうすれば身体を心地よく受け止められるのか。「デザインのためのデザイン」ではなく、人の生活を豊かにするためのデザイン。その考え方から生まれた代表作のひとつが、このイームズラウンジチェアです。

 

〇身体を受け止める、イームズラウンジチェア

イームズラウンジチェア&オットマンは、1956年に発表されました。チェアは「670」、オットマンは「671」。現在まで生産が続く、20世紀を代表するラウンジチェアのひとつです。その特徴は、何よりも身体を包み込むような座り心地。

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チャールズ・イームズは、この椅子について「使い込まれた一塁手のミット」のような、温かく身体を受け止めるものを目指したと語っています。確かに、実際に椅子を見ると、その言葉の意味がよくわかります。身体が触れる部分には厚みのあるクッションが使われ、背もたれから座面にかけて身体を優しく受け止める。さらにオットマンに脚を預ければ、仕事をするためでも、食事をするためでもない、「ただくつろぐ」という時間が生まれます。

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現代の生活では、何かをするために椅子に座ることが多いものです。仕事をする。食事をする。本を読む。テレビを見る。けれど、この椅子が求めているのは、そのどれでもありません。ただ、身体を休ませること。何もしないこと。それ自体を楽しむこと。それが、この椅子の大きな魅力なのかもしれませんね。

 

〇「成功者の椅子」と呼ばれる理由

イームズラウンジチェアには、どこか特別な雰囲気があります。木のシェルとレザーの組み合わせ。大きく張り出したアーム。重厚感のあるフォルム。そして、身体を深く沈み込ませるような姿勢。映画やドラマにも数多く登場し、インテリアに詳しくない人でも、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

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発売当初から高級家具として位置づけられ、イームズ夫妻の数多くの作品の中でも、特別な存在であり続けています。だからこそ、この椅子には「成功者の椅子」というイメージもあります。仕事を成し遂げた人が、静かな部屋でグラスを片手に座っている。そんな映画のワンシーンを思い浮かべる人も多いでしょう。ところが、そこに座っているのがフランキーです。ここが、この表紙のおもしろいところだと思っています。

 

〇成功者には見えない男

フランキーは、決して「成功者」という言葉が似合う人物ではありません。情報屋として優秀な能力を持っているにもかかわらず、生活はどこか雑然としている。女性には振り回される。恋愛ではうまくいかない。格好よく決めようとしても、どこか残念な結果になる。ロイドのような洗練されたスパイでもなければ、ヨルのような圧倒的な身体能力があるわけでもありません。

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むしろ、物語の中では「ちょっと頼りなさそうな大人」として描かれることもあります。でも、そんな彼だからこそ、わたしはイームズラウンジチェアがよく似合っていると思います。この椅子は、肩書きや能力を誇示するための椅子ではありません。そこに座った人が、誰にも見せない顔で、ようやく力を抜くための椅子です。

 

〇本当は、人とのつながりを求めている男

フランキーという人物を見ていると、ひとつ気になることがあります。彼は、実はとても「寂しがり屋」なのではないでしょうか。女性との恋愛を何度も夢見ては失敗し、ロイドやアーニャたちと過ごす時間を楽しみ、時には家族のような関係に憧れている。お金や名誉を手に入れたいというよりも、「誰かと一緒にいたい」「自分のことを必要としてほしい」そんな、ごく普通の願いを持っているようにも見えます。

 

 

〇「くつろぐ」という、ささやかな贅沢

イームズラウンジチェアは、1940年代から続くイームズ夫妻の成型合板への研究の延長線上にあります。熱と圧力によって合板を立体的に成型する技術は、第二次世界大戦中にはアメリカ海軍向けの木製副木などにも応用されました。戦後、その技術は家具へと発展し、1946年にはプライウッドチェアが生まれます。そして、それから10年。それまで培われてきた技術とクラフトマンシップを背景に、1956年、イームズラウンジチェア&オットマンが発表されました。シェルには複数層の成型合板が使われ、そこにレザーのクッションが組み合わされています。

 

ロイドの任務を支えるため、情報を集め、道具をつくり、ときには危険な仕事にも協力するフランキー。彼はいつも誰かのために動いています。だからこそ、この椅子に座ったときくらいは、何も考えずに休んでいてほしい。そんなふうにも見えてきます。イームズラウンジチェアは、単に身体を休ませるための椅子ではなく、「自分自身に戻るための場所」。そう考えると、フランキーがこの椅子に座っていることには、意外なほど深い意味があるように感じています。そして、イームズラウンジチェアもまた、派手な造形で人を驚かせるというより、座った人の身体を受け止めることで、その人の時間を豊かにする椅子です。

人を押し出すのではなく、受け止める。人の前に立つのではなく、人を支える。そんなところに、フランキーとこの椅子の共通点があるように思います。

 

〇今回の一脚

  • 〇名前:Eames Lounge Chair & Ottoman(イームズラウンジチェア&オットマン)
    〇発表年:1956年(46歳の作品)
  • 〇Designer:Charles & Ray Eames(チャールズ&レイ・イームズ)
    〇Chair:Model 670
    〇Ottoman:Model 671
    〇Brand:Herman Miller(ハーマンミラー)

 

そしてもしかすると――

彼が本当に欲しいのは、世界一の発明でも、莫大なお金でもなく、「ただ誰かと一緒に、安心してくつろげる場所」なのかもしれませんね。

イラスト

イラスト:シチロメグミ

 

次回、アーニャの親友で、名門ブラックベル家のご令嬢、大人びた言動と恋する乙女心を併せ持つベッキー・ブラックベルが座るココナッツチェアの登場です!どうぞお見逃しなく!!