お知らせ ほぼ日記

椅子のことを、椅子を囲んで考える

高野中学校の生徒たちが、ゆめおり椅子の工房にやってきました

先日、京都市立高野中学校の生徒の皆さんが、ゆめおり椅子の工房にやってきました。

以前、総合的な学習の時間にお招きいただいた「椅子」についての授業。

良いものをつくる前に、良い問いを見つけよう

その続きとして、今回は生徒の皆さんからインタビューを受けることになりました。

インタビュー風景2

工房には、アンティークの椅子から、普段の暮らしで使われるダイニングチェアまで、さまざまな椅子があります。
まずは簡単な挨拶を済ませ、実際に椅子に座ってもらうところから始めました。
見慣れた椅子とは少し違う雰囲気のもの。
普段なら、なかなか座る機会のない形のもの。それぞれの椅子に座りながら、どんな用途で使われてきたのか、どんな特徴があるのかをお話ししました。
時折、冗談も交えながら、椅子の違いを楽しんでくれている様子が印象的でした。

そして、いよいよインタビューへ。

次々と質問が出てきます。どれも、椅子をつくること、使うことについて、自分たちなりに考えているからこそ出てくる質問でした。

 

見えないところにこそ、大切なことがある

最初の質問は、「椅子をつくるとき、技術面以外で大切にしていることはありますか?」というものでした。

椅子の張り替えという仕事では、完成すると見えなくなってしまう部分がたくさんあります。座面の中にあるクッション材や、その下にある土台。普段、お客様が目にすることはほとんどありません。けれど、椅子に座る人にとっては、その見えない部分こそが座り心地を左右します。

もちろん、毎日手や身体に触れる生地も大切です。見た目の美しさや色合いだけでなく、触れたときの感触や、使い続けたときのことも考えなければなりません。お客様が目にする仕上がりだけでなく、その内側まできちんと整えること。長く使っていただくためには、見えないところにも手を抜かないことが大切だと考えています。

 

椅子の土台はどうして大切なのか

次の質問は、座面のつくり方についてでした。「座面は、何か土台を用意して、その上にクッションを置くのですか? それとも、土台を用意せずにクッションだけでつくるのですか。どちらがいいのでしょうか?」

これは、ものづくりの根本に関わる質問だと感じました。

私自身、ものづくりにおいて大切なのは、まず土台だと考えています。何かを組み立てるとき、最後の仕上がりをきれいに整えるためには、その前段階である土台がしっかりしていなければなりません。

椅子の張り替えでも同じです。生地を張り込んでいくと、キワの部分や角の部分など、細かな始末が必要になる場所がたくさん出てきます。土台が整っていなければ、最後にいくら丁寧に仕上げようとしても、きれいな形にまとめることは難しくなります。

もちろん、椅子にはさまざまな構造があり、土台のつくり方も一つではありません。大切なのは、それぞれの椅子に合った構造を考え、仕上がりまで見通して組み立てていくこと。見えない土台をきちんとつくることが、最後に見える美しさにつながっていくのだと思います。

インタビュー風景3

人が座りたいと思う椅子とは?

「人が座りたいと思えるようなデザインはありますか?」

この質問には、正直、すぐに答えを出すことができませんでした。椅子の仕事をしているのだから、何かしら明快な答えがあってもよさそうなものですが、これがなかなか難しい。

座りたいと思う椅子は、人によって違います。身体を休めたいときに座る椅子と、食事をするときの椅子。勉強に集中するための椅子と、誰かとゆっくり話すための椅子。それぞれに求められるものは違います。

見た目が美しいから座りたくなることもあれば、座ったときの安心感や、身体に自然となじむ感覚が理由になることもあるでしょう。あるいは、そこに座ることで過ごした時間や、誰かとの思い出が、その椅子を特別なものにしているのかもしれません。

そう考えると、「人が座りたいと思う椅子」を形だけで決めることはできません。どんな人が、どんな場所で、何をするために座るのか。椅子のデザインを考えるときには、椅子そのものだけでなく、そこに座る人のことを考える必要があるのだと思います。

今回の質問は、私自身にとっても、改めて考えてみたい問いになりました。

 

背もたれは、どこまで必要なのか

続いて、「学校の椅子のように、背もたれは一部分だけでいいのか。それとも、背中全体を預けられるものがいいのか?」という質問もありました。

これも、どちらが正解とは簡単に言えない問いです。背もたれが小さければ、身体を動かしやすく、椅子自体もすっきりとした形にできます。

一方で、背中を広く支える背もたれには、身体を預けて休みやすいという利点があります。ただし、背もたれが大きければ、必ず座り心地がよくなるというわけでもありません。座る人の身体や姿勢、椅子を使う時間、そしてその場所で何をするのかによって、適した形は変わってきます。

学校で使う椅子と、自宅でくつろぐための椅子では、求められる役割も違います。形を考えるときには、「背もたれを大きくするか、小さくするか」という選択だけでなく、そもそも何のために背もたれが必要なのか、というところから考えてみる。そんな視点も大切なのではないでしょうか。

 

木材とプラスチック、どちらがいい?

最後に紹介するのは、材料についての質問です。「椅子の材料は木材がいいのか、それともプラスチックのような素材がいいのか?」

木材には、木材のよさがあります。木目や色合い、手に触れたときの感触。使い込むことで生まれる変化も、その魅力の一つです。一方、プラスチックにも、形をつくりやすいことや、軽さ、量産のしやすさなど、さまざまな利点があります。それぞれに長所があり、用途に応じて使い分けられています。

最近は、プラスチックを使った椅子を目にする機会も増えたように感じます。だからといって、木材がよくてプラスチックがよくない、という話ではありません。大切なのは、その材料を使うことで、どんな椅子を実現したいのかを考えることです。材料の特徴を知り、それぞれのよさを生かす。

生徒の皆さんがこれから椅子を考えていくうえでも、材料を一つの視点だけで判断せず、いろいろな角度から見てほしいと思います。

 

予定の1時間を超えて

今回のインタビューは、約1時間を予定していました。ところが、質問は次々と続き、気がつけば、帰りのホームルームを取りやめるほど、生徒の皆さんが熱心に取り組んでくれていたようです。

そのやり取りを見ながら、椅子について知りたい、もっと考えてみたいという気持ちが伝わってきました。

私にとっても、普段の仕事とは少し違う時間でした。

毎日、工房で椅子と向き合っていると、どうしても目の前の作業や仕上がりに意識が向きます。もちろん、それは仕事をするうえで欠かせないことです。けれど、生徒の皆さんからの率直な質問は、普段の仕事の中では立ち止まって考える機会の少ないことにも、目を向けさせてくれました。

当たり前だと思っていたことを、改めて問い直してみる。

職人として答える立場でありながら、私自身も考えるきっかけをいただいた時間だったと思います。

インタビュー風景4

地域の中で、椅子の張り替えの仕事をするということ

私が椅子の張り替えの仕事を続けているなかで、大切にしていることの一つに、地域に根付くという考えがあります。

身近な人たちが使っている椅子を張り替え、もう一度、気持ちよく使えるようにする。買い替えるだけではなく、今あるものを直し、これからの暮らしにつなげていく。そうした仕事を通して、地域の暮らしに貢献できることを、私はうれしく思っています。

今回の中学校との関わりは、いつもの椅子の張り替えとは違うかたちでの地域とのつながりでした。

椅子についてお話しすること。生徒の皆さんが考えていることを聞くこと。そして、こちらも一緒になって考えること。それが、生徒の皆さんにとって何か一つでも、これからの学びにつながればと思い、お引き受けしました。

地域に根ざした仕事というのは、単に地域のお客様からご依頼をいただくことだけではないのかもしれません。

自分がこれまで培ってきた経験や知識を、必要としている人に手渡していくこと。それもまた、地域にできることの一つなのだと思います。短い時間ではありましたが、私にとっては、とてもよい刺激をいただいたひとときでした。

高野中学校の先生方、そして工房まで足を運んでくれた生徒の皆さん。たくさんの質問と、新鮮な視点をありがとうございました。

これから皆さんが「椅子革命」の取り組みを進めていくなかで、今回の時間が少しでも役に立つことを願っています。そして私自身も、皆さんからいただいた問いを、これからの椅子の仕事のなかで大切にしていきたいと思います。

改めまして、貴重な機会をありがとうございました。